八亀裕美・工藤真由美『複数の日本語』講談社
- 作者: 八亀裕美,工藤真由美
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/11/11
- メディア: 単行本
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さて、すでにネット上でも評判が出ておりますが、とても良い本であると感じます。
新書・選書の類にも、方言を紹介する本は多くありますが、類書にはないダイナミックさを持っています。方言と方言を比較したり、日本語以外の言語と比較することで、標準語よりも豊かな*1各地の言語のありかたを示そうとしているからです。
一つ一つの事項について、もう少し詳しく書いて欲しい、と思うところもありますが、そこは入門書(「最前線へとご招待」)というところで、後に挙げてある参考文献を見ればよいことと思います*2。
図版がちょっと濃淡が甘い(?)ものがある(『日本言語地図』とWALS)のが、やや残念な点です。引用ですから仕方ないところがあるのですが。
1500円。日本語(学)に興味を持たせるような講義をするのであれば、テキストにしてみたい本であると感じました。ただ、そういう講義をするのは本務校以外では、あまり無いでしょうし、本務校には工藤真由美先生がいらっしゃるし、八亀裕美さんも非常勤で来られることがあるようですし、実際にテキストにする機会は持ちにくいと思いますが、参考書として奨めたいと思うものです。
http://d.hatena.ne.jp/nosem/20081117#p4
こちらに書かれている感想、「日本語方言はなぜもこんなに多様なのかという疑問」を拝見して思い出したことですが、たしか亀井孝氏が書いていたこと。西洋の言語学者から、「日本列島は本当に日本語だけが話されているのか。よく探したら、異なる言語があるのではないか」と問われた、という話。
補
九州人としては、形容詞と形容動詞の連続のところなど、面白いのですが、その関連の話。福井にいた頃、大野市当たりの方言で、「〜ない」の形の形容詞が大量発生している、という報告を学生から受け、卒論でも書いてもらったのですが、今ひとつ実態を掴みきれずにすませたことを残念に思っています。
「いたいけない」はあちこちにある言い方ですが、「さびしない」の類もありました。
一方、関西では「さびしゅうない」的言い方はすたれ、否定の意味で「さびしない」的な言い方が増えてきているようです。福井県は、そうした関西的な言い方である〈さびしくない〉の「さびしない」と、大野市周辺の〈さびしい〉の「さびしない」が近接していることになるのではないかと思うのですが、そのあたりを詰め切れなかったのです。